DX(1)
皆様こんにちは、株式会社コアブリッジの柳です。
今回はDX(Digital Transformation)です。
あちこちで”DX”という言葉が連呼され、その説明や事例を読んでも、なんだかよく分からない、という方も多いでしょう。実態不明の言葉が先行するというのはITの世界によくあることで、「インターネット(The Internet)」「マルチメディア(Multimedia)」「クラウド(Cloud)」などが話題に挙がった時にも同様でした。
DXの必要性・重要性が叫ばれて久しく、情報があふれている現状ではありますが、私見を述べていきます。
DXの定義
DX(Digital Transformation)は「デジタルによる変化」のことですが、単なるデジタル化だけでなく「現状を変えること」を指します。
なお、”transformation”を”X”と記すのは、”trans-“に「横切る」という意味がありその形状を表す”X”で略記するため、と言われますが、通信機器の送信側(Transmitter)を”TX”と記すだけでなく受信側(Receiver)も”RX”と記すので、正確な由来は不明です…
“Digital Transformation”という言葉が最初に使われたのは、スウェーデンのウメオ大学のErik StoltermanとAnna Croon Forsの両氏による2004年の著述『INFORMATION TECHNOLOGY AND THE GOOD LIFE』(※正確には”Information Systems Research: Relevant Theory and Informed Practice”という書籍の中の記述)とされています。
この6ページの論述の中に、
“The digital transformation can be understood as the changes that the digital technology causes or influences in all aspects of human life.”「デジタル技術が人間の生活のあらゆる面で引き起こす、または影響を与える変化のこと」
と記されています。さらに、
“One of the most important changes that come with the digital transformation is that our reality by and through information technologies slowly becomes more blended and tied together.”「デジタル トランスフォーメーションに伴う最も重要な変化の1つは、情報技術によって、また情報技術を通じて、我々の現実が徐々に混ざり合い、結び付けられるようになること」
とも書かれています。
なお、昨年(2022年)に、さらに社会/公共/民間の三つの観点に細分化して再定義されました。和訳されたものがここに掲載されています。
我が国では、
総務省は「企業が外部エコシステム(顧客、市場)の劇的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること」、
経産省は
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」
のように定義しています。
※ 経産省の定義のリンクは2019年の文書に対するもの。最初に定義を行った2018年時点の文書は削除されている模様。
DXへの段階:Digitization → Digitalization → DX
DXは、Digitization → Digitalization → DX のように、デジタル化の延長の第三段階としてしばしば説明されます。
最初のDigitization(デジタイゼーション)はいわゆる”デジタル化”のことで、紙などを電子化することです。まずはここから始まり、実際にリモートワークへの本格移行時に最初に行ったことではないでしょうか。
第二段階のDigitalization(デジタライゼーション)もデジタル化のことですが、こちらは”IT化”のことです。電子化を前提として、業務などの人的行為をITにより自動化・効率化することを指します。
なお、digitalizationには「ジギタリス(強心剤の一種)投与」という意味があり、「心拍を強める」という効果が第二段階の意味合いとして都合が良いということも裏にはあるのでしょう。
DXが第三段階(現時点の最終形)で、IT化により得られた余力とデータを活かして変革を起こし新たな価値を生み出そう、というものです。AIがもてはやされていることの理由の一つがこれでしょう。
digitizationやdigitalizationと比べて、IT技術よりもビジネス寄りになっています。
DXがなにものかよく分からない理由
巷にあふれるDX関連の書籍を読んでも分かったような分からないようなということが多いのですが、
- 「DXは単なるデジタル化(IT化)とは異なる」と書いているのに、色々と紹介されている事例がIT化と大差ない
- 成功事例が書かれていても、その企業のビジネスモデルに特化した話で、我が事に置き換えにくい
- 失敗事例は「そうそう、よくありがち」というものばかりだが、これはDXに限らず、digitization/digitalizationの両デジタル化段階でも当てはまること
という理由からではないかと考えています。
もっとも、これはやむを得ないことで、
- DX(=変革)は定型のものではなく
- 各社が三者三様でもがきながら試行錯誤中あるいは継続中で
- 第三者が外から見ても分からないことも多い
という事実があり、容易に「わかった」とは言えないものです。
加えて、IT技術とビジネス両面の素養が求められ、それをすでに備えている人(DX人材)はなかなかいない、ということもあるでしょう。
ましてや実践するとなると様々な障壁があり、成功率が低いのもこれまた事実です。
ではどのような考慮事項があるのか、それについては次号で記してまいります。
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