2019.06号 タイ特別編(3)

皆様こんにちは、株式会社コアブリッジの柳です。
今回も、タイの特別編をお届けします。
5月初旬に行われた新国王戴冠の一連の儀式の後、3月末に実施された総選挙の結果がようやく発表され、6月に入ってから首相指名も行われました。5年間続いた軍政から、選挙後の民政に形としては移行したのです。

総選挙結果

3月24日に実施された総選挙(下院500議席)の最終結果が、選挙後一ヶ月半経った5月7日に、タイの選挙管理委員会からようやく発表されました。暫定結果(得票数)は投票日の四日後に出ていましたが、公式な結果は、小選挙区(350議席)の結果は5月7日に、比例区(150議席)の結果は5月8日と、二段階で発表されました。
上位5党の議席数は以下の通りです。
 1. タイ貢献党  :136議席 ※タクシン派政党。反軍政
 2. 国民国家の力党:116議席 ※プラユット暫定首相が立ち上げた親軍政の新党
 3. 新未来党   :  81議席 ※新党、反軍政
 4. 民主党    :  53議席 ※反タクシン、反軍政
 5. タイの誇り党 :  51議席

連立の画策

今回の選挙制度の特性もあり、圧倒的多数の議席を獲得した党はなく、結果的に連立工作により政権が決まり、上院(軍政が任命する250人)+下院500人の合計750人に対する過半数で首相が選ばれます。
どの党も単独での過半数には達せず、軍政のプラユット暫定首相が立ち上げた党(親軍政)、タクシン派政党(反軍政)、反タクシン派政党(どちらにつくか不明)、新党(同左)、少数政党(同左)が入り乱れての陣営作りです。
政権獲得後の大臣職や議長のポストに言及した露骨な駆け引きなども報道されていました<https://www.bangkokpost.com/thailand/politics/1679700/palang-pracharath-closer-to-coalition>。

結果として以下の二陣営に別れました。
 ◆親軍政:国民国家の力党のプラユット氏を首相指名
  116議席:国民国家の力党(第2党)※プラユット暫定首相が立ち上げた新党
    53議席:民主党    (第4党)
    51議席:タイの誇り党 (第5党)
 ◆反軍政:新未来党のタナトーン氏を首相指名
  136議席:タイ貢献党  (第1党)
    81議席:新未来党   (第3党)※新党
上記陣営に、その他の多くの少数政党が加わって大連立を形成したわけです。

タクシン派政党と軍政の両方に距離を置いていた民主党の動向が注目されましたが、紆余曲折を経て、軍政側につきました。民主党前党首アピシット元首相は、自らの政治信条と合わないという理由で議員辞職を表明しています。

首相指名

首相指名の投票は6月5日夜に行われました。親軍政党は暫定首相のプラユット氏を、反軍政党は新未来党党首のタナトーン氏を推し、結果として、得票数500対244で、プラユット氏が新首相に指名されました。
首相指名投票では、プラユット氏は、軍政が指名した上院250名と下院の親軍政の連立政党(19政党!)から票を獲得し、ダブルスコアの圧勝でした。しかし、下院のみを見ると、文字通りギリギリの過半数です。連立与党を形成する19の政党のうち、1つか2つの党が造反しただけで半数割れしてしまい、予算案や法案が通らなくなるわけで、とても安定した政治運営は望めません。
長らくタクシン派と反タクシン派(+軍や司法)の争いとクーデターによる政権転覆が続き、タイの成長も頭打ちになってしまっている現状では、混乱に終止符を打ち、安定して国を運営して行くことが何より望まれています。しかし、残念ながら、今回の新体制ではそれは期待できません。
連立構想中に、すでに新内閣がうまくいかないことを見据えて、反軍政の立場をつらぬき次に備えるべきだという考えを持ったグループも出てきています(https://www.bangkokpost.com/thailand/politics/1680112/speaker-plan-upsets-pheu-thai)。

軍政から民政へ

軍事政権下では、軍の超法規的な権限により国事を決めることが可能で、良くも悪くも、即断・即実行ができました。しかし、選挙により新体制に移行してからは、国会において合議で決めなくてはなりません。
累卵のような連立与党におけるプラユット氏の政権運営に対して
「造反者が出て過半数割れが起きるのはたやすく、物事が決まらずに停滞する」
「軍に確固とした支持基盤を持つプラユット氏は、クーデターを起こされる心配はなく、造反者が出ても影響は限定的で、任期を全うする」
という両方の見方が出ています。
いずれの見解が正しいにせよ、政治の世界ゆえ、与党、野党共に、次の選挙とその後の内閣を見据えて戦略を練っている模様です。
今後も不安定な状況は続きます。日本をはじめとする、タイに投資・進出している諸外国は、慎重に状況を見て行く必要があります。

今号は以上で終了です。
ではまた次回お会いしましょう。

※本文中の数値やURL等は執筆時点のものです